2008年5月18日日曜日

渡辺保の劇評 2008年5月新橋演舞場

吉右衛門の「一本刀」はすでに何度も見たものであって悪かろうはずはないが、今度はことさらサラサラとして淡泊。力まず、衒わず、嫌味なく、余裕のある出来である。それでいてするところは突っ込んでいる。たとえば序幕第二場の利根川の渡し、幕切れの空を見た顔が、実に屈託のない明るさ、素直さで、印象深い。大詰もお蔦親子を見送ってジッとなるところがうまいが、さらにそのあと荷物をとって、桜の樹の下で腕組みをして向こうを見る姿が、自然でありながらおのずから絵になっている。この兼ね合いがさすがにうまいものである。  芝雀のお蔦は、これも自然に素直に運ぶ芝居が吉右衛門に合っている。船印彫師辰三郎は錦之助。波一里儀十が歌六。船戸の弥八が歌昇、染五郎の掘下げの根吉。なかでは歌昇の弥八が出色の出来である。(2008年5月新橋演舞場)

渡辺先生の批評がずっとでなくて、どうかなさったのかと心配して居りましたが、体調を崩されたとか~お大事になさって下さい。



さて、夜の「四谷怪談」が気になりますが、昼の吉右衛門の「一本刀」が安心して見られる演目のようです。