2008年11月13日木曜日

犬丸治の随想~国立劇場「人間豹」

乱歩は「探偵小説」だろう。つまり「推理小説」である。原作「人間豹」は、ホラー的色彩が強いものの、随所に乱歩らしいトリックと、それを暴く明智の機智があって読ませる。 ところが、今回の舞台には「推理」もトリックもないのである。 全てが場当たり、当てずっぽう。 たとえば序幕第三場の「ウズメ舞の場」で、将軍がお忍びで見世物を見に来る(松平健かね?)ので観衆も「目がつら」を着けるというのは、原作の「レビュー仮面」だが、これはレビューの舞台で江川蘭子を拉致しようとするとき、人間豹が群衆に紛れて逃げるトリックなのに、今回は全く意味がない。(2008年随想・漫筆・余滴)

今回の企画、私は密かに期待していました。少年少女文庫の乱歩を読んだきりでしたので、古本屋で文庫本を買い一気によみました。当時の東京の様子が分かり、人々の暮らしがいきいきと書かれていて面白かったです。もちろん罠にはまる所などハラハラドキドキして、推理小説の楽しみも堪能できました。読後、あの場面はどこにするのかな?トリックはどう見せるのかしら?といろいろ想像し、早く舞台が見たいと思っていました。



岡本綺堂の「半七捕物帖」は何本か舞台化され、人気を得ました。乱歩も今回成功すればシリーズ化も可能かと思ったり致しました。



さて、5日に期待を胸に国立劇場に行きました。序幕、不忍池、弁天島の茶屋の場、いきなり新内の演奏で良い雰囲気です。神谷芳之助(染五郎)とお甲(春猿)の色模様、そこに蕎麦屋がいて、彼のセリフは新内の語りが受け持つ。これは人間豹だなと分かる。果たして、直にお甲はかの鉤爪で肩を傷つけられ、殺されます。この幕は時代を江戸に移し、突然恋人が殺されてしまう物語の最初として納得いきました。



次の場、ウズメ舞のところでは、犬丸氏が指摘されているように、レビュー仮面の変わりに目がつらを代用、しかし人間豹がこれをつけてうまく逃げるというトリックは採用されない。ならば、この説明は意味が全くない。原作ではこの劇場では蘭子は助かり、次の展開へと続くのだが・・・長くなるので短縮は仕方がないが、カットしすぎで2時ちょっとに終演?同じ料金を払っているのに損した気持になりました。30分の休憩一度だけ、15分の休憩でもう一幕あっても良かったと思います。



染五郎の神谷と人間豹の二役、春猿のヒロイン3役、幸四郎の明智と好配役なのに残念でじた。