2009年7月24日金曜日

渡辺保の劇評 2009年7月歌舞伎座

「夏祭」は海老蔵東京初役の団七九郎兵衛。  私は四国金比羅でその初役を見た。いかにも町の魚屋が、いきがっての男伊達という感じがあって、例によって目のよく効く具合もふくめて迫力にある出来栄えだった。  しかし今度は歌舞伎座の大舞台のせいか、いささか小粒に見える。金丸座と違ってこれだけ広い舞台になるとナマの印象よりも芸のスケールが問題になるからだろう。 (2009年7月歌舞伎座)

私も金丸座の海老蔵の団七を見て素晴らしいと思った一人ですが、今回の「夏祭」は印象が変わるだろうと予想していました。やはり大舞台となるとかってが違ってきます。関西訛りの不得手な役者さんばかりで、この芝居の味を出すのは難しいのでしょう。



一昨年の7月の公演は鏡花作品のみという画期的な企画でした。出演の俳優全員が玉三郎を中心に鏡花の世界を作り上げたのです。中でも「天守物語」は完成度が高く、この後上演されてもこれを超すことはないだろうと思っていました。こんなに早く「天守物語」を再見するとは思っていなかったのですが、やはり前回の方が勝っていました。海老蔵の成長、我当の好演は良かったものの、全体的には、前回より鏡花の純粋な香りはなかったように感じました。



「五重塔」は期待していた割には感動が少なかったです。原作の骨太い、男と男の心の結び付きがうまく表現されていない、これは脚本の責任でしょう。宇野信夫は周囲の状況表現を丁寧に描いた分、主役二人の人間描写が弱くなったのでしょうか。渡辺氏の説明によれば、里見氏のが良いとか、そちらので勘太郎に再演を願いたいです。