2012年3月25日日曜日

長谷部浩の劇評 2012年3月国立劇場

そして「陣屋」である。今回は、相模(魁春)と藤の方(東蔵)の入り込み、梶原(市蔵)による弥陀六(弥十郎)の詮議も上演されたために、熊谷(團十郎)の苦悩がより観客に理解された。初役の魁春が凜(りん)とした空気を漂わせ、東蔵が母としての心の乱れをよく見せる。戦場に子を送る二人の母の心情があってこそ、物語も首実検も制札の見得(みえ)も生きる。團十郎は武士としての貫目はもちろん、感情の振幅の大きさが生きた。三津五郎は、曇りのない清明な心境の義経を描出している。幕切れの熊谷の名台詞(めいぜりふ)も、大きく張らない。「夢だ、アア夢だ」と振り絞るような述懐となり深いところに届く。(東京新聞:<評>国立大劇場「一谷嫩軍記」 感情の振幅生きた團十郎・熊谷:伝統芸能(TOKYO Web))
最近はカットされることが多い前半を丁寧にやったことは、初めてこの狂言を観る人にも、又何度も観ている人にも物語が鮮明に分かります。省略するのが定着するのは丸本ばなれに拍車をかけることになりかねません。時間の都合上なら、一狂言すくなくなっても是非今回のように上演して欲しいと思います。