2014年1月3日金曜日

上村以和於の随談 第511回 新年あれこれ 2014年1月

そういうときに見た梅幸の「娘道成寺」に心現われる思いがしたことを、いまも時々思い出す。梅幸という人も、そういう人だった。ピアフは死んでからドラマになるが、ジローのドラマなど誰も作ったりしない。しかしそれはそれで、立派な価値があるのだ。梅幸もきっと・・・ 同じときに『乗合船』で三代目左団次の通人を見たのも、ああいうものはあの時でなければ見られまいと思う眼福だった。通人というものはまさにあゝいうものだという他はない。十七代目勘三郎だの、九代目宗十郎だの、その後にも、こういう通人は二度とは見られまいというような通人を見たが、左団次のは、それらとも更に次元を異にしたものだった。見ておいてよかった、とつくづく思う。『乗合船』の通人のような役にでも、そういうことはあるのだ。(演劇評論家 上村以和於オフィシャルサイト)
このお話の歌舞伎座2月公演は、六代目の23回忌追善で菊五郎劇団の公演でした。梅幸の道成寺ですが、たまたま明治座の前売りの日で雪が降っていました。浜町の粋な黒板塀に雪がかかり、お芝居の書割を連想しました。そして歌舞伎座の幕見で道成寺を見たのです。外は雪、舞台は桜満開の春、艶やかに踊る梅幸をみて心が躍り、感動で涙が滲みました。この時の感動は今も鮮明に残っています。
そして「乗合船」 、今の菊十郎さんが梅五郎から菊十郎になったお披露目が狂言半ばにありました。配役が最高でしたので書いてみます。萬歳ー松緑・才造ー羽左衛門・通人ー左団次・大工ー辰之助・芸者ー菊之助・田舎侍ー市蔵・女船頭ー芝翫・白酒売ー梅幸。菊十郎さんは箱屋の梅さん、菊蔵さんの息子菊丸君初舞台(多分?)他劇団の脇役陣も出ていました。松緑、羽左衛門の軽妙で嫌味のない踊り、辰之助、菊之助の粋で目の覚めるような美しいカップル、芝翫の女船頭は芝翫縞の衣装がよく似合うあだっぽい感じ、梅幸の白酒売はおっとりとした品のある風情、そして左団次の通人が劇団の長老という風格を表に出さず、はんなりと色っぽく、実に良い通人でした。この舞踊劇はいかにも初春の江戸の人々の賑いを見せてくれる幸福感に満ちたものです。私はこの後何度も「乗合船」を見ていますが、この時の喜びは味わっていません。見ておいてよかった上村氏と同感です。