2014年12月14日日曜日

犬丸治の劇評 2014年12月 歌舞伎座夜の部

鳴神の気を引くために、夫との馴れ初めなを仕方噺ばなしで語るくだりは、話の引き出し役である白雲坊(坂東亀三郎)黒雲坊(坂東亀寿)の明晰めいせきな演技とあいまって、目に浮かぶように立体的。
鳴神に懐に手を入れられて「お師匠様」とつぶやく恍惚こうこつとした表情では、舞台一杯に大輪の花が咲くようだ。  
特に後半、鳴神が龍神を封じ込めた経緯を語るのをジッとイキを詰めて聞き入り、「雨がふるかえ、あの雨が」と天を仰ぐまでのやりとりが、緊迫感溢あふれる。滝の注連縄しめなわを斬ろうと、帯に手を廻まわした姿態の良さ、花道の引っ込みでの芸容の大きさまで、彼一代の芸である。  
海老蔵の鳴神も、名僧知識らしい品格と、朝廷に恨みを抱く不遜と険しさを兼ね備えて上出来。絶間の色香に迷い、堕落していく苦悩を丁寧に追う。後半、姫にはかられたと知って荒れ狂うくだりは、巖いわを駆け降り、花道で飛び六法にかかるまでの動きが鋭く、たわみがない。江戸歌舞伎のおおらかな荒事の神髄が凝縮された一幕である。([評]十二月大歌舞伎 : カルチャー : 読売新聞(YOMIURI ONLINE))
雷神不動北山桜の鳴神の評です。荒事の神髄凝縮した一幕と書いていますが、江戸歌舞伎の醍醐味を海老蔵・玉三郎・亀三郎・亀寿の明晰な演技で堪能できます。