2015年12月8日火曜日

渡辺保の劇評 2015年12月 歌舞伎座昼の部

玉三郎の墨染は、この人一代の当たり芸。この人の芸風をよく表した役でも ある。その特徴は神話的な幻想の姿にある。歌右衛門梅幸だと墨染はあくまで 一個の人間であるが、玉三郎のそれは人間というよりも桜の精そのものである。  たとえば桜の洞から出て関兵衛の上手で廻る「根ごして植えて春ごとに」、 ついで下手でふたたびグッと反って廻る辺りは、雪の降る天空を仰ぐその姿が 一人の女というよりも、桜―小町―墨染――女というイメージになる。こうい う身体よりもイメージを描くところにこの人の芸の特質がある。
松緑初役の関兵衛は、豪快でキッパリとしていい踊りである。まず浅黄幕が 落ちるとセリになる。このセリで片膝ついているのも貧弱だし、「五尺手拭」 のいつもの見得も常磐津でないために見伊達がない。問答の竹本であることは すでにふれた通り、しかし踊はしっかりしたものである。(2015年12月歌舞伎座昼の部)
竹本と常磐津での関扉は作品の持つ色を壊してしまうというご意見です。