2016年1月10日日曜日

長谷部浩の劇評 2016年1月 歌舞伎座夜の部

新春の歌舞伎座。夜の部は『二条城の清正』が出色の出来。吉田絃次郎作の新作歌舞伎で理に詰んだ台詞劇だが、清正の幸四郎、秀頼の金太郎。いずれも落日の豊臣家を襲う息が詰まるような切迫感が感じられて説得力がある。これが歌舞伎の不思議で、孫の行く末を案じる祖父幸四郎の心情が、加藤清正のまっすぐな忠義と重なる。金太郎はもちろんこれからの役者だが、一時間に及ぶ台詞劇を持たせたのは立派。これは生来持った役者としての華によるものだろう。
華やかな舞台の中にこういうセリフ劇が入ると、見応えあります。
染五郎初役の『直侍』も心に暗澹たる暗闇を抱えた男として造形して、これはこれでひとつのやり方だろう。なにより素晴らしいのは脇役陣で、これほどの役者を揃えたら芯に立つ染五郎の直次郎は、よほどしっかりしなければ喰いまくられてしまう。東蔵の丈賀は、うなるほどの出来映えで、この水準を抜く丈賀をこれから観るのは難しいだろう。暗闇の丑松は吉之助で、これも幹部がやるより凄みがあってよい。嫌なやつに徹している。蕎麦屋亭主と女房は、高麗五郎と幸雀、市井に生きる人間の日々の生活感が滲み出て、ふたりのやりとりを聞いているだけも胸がじんしてくる。(TheaterGoer Directoy    長谷部浩の劇評)
私はこの「直侍」が大好きです。雪の畦道を歩いてくる直次郎の姿、湯気が昇る蕎麦屋の場での何気ないやりとり、江戸の市井に生きる庶民の生活ぶりが活き活きと描かれています。「大口寮」では何と言っても清元が良い。男女の逢瀬の情感が胸に響きます。