2019年1月8日火曜日

歌舞伎の初芝居 三氏の劇評

 天野道映
浄瑠璃を基にする義太夫狂言の魅力を尋ねれば、何よりも役者の声である。  歌舞伎座の「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」の原作浄瑠璃は18世紀の大坂で書かれた。主人公光秀の思いは、黒糸威(おど)しの鎧(よろい)を着て尼ケ崎の百姓家の縁先に岩のように座る吉右衛門の素敵な声になって、よみがえってくる。(歌舞伎座)
浅草公会堂の「源平布引滝 義賢最期」がやはり義太夫狂言で、ここでは松也の木曽義賢の声に胸を打たれる。(浅草公会堂)
 児玉竜一
次世代の尾上菊之助、尾上松緑の小女郎狐(ぎつね)夫婦を中心に、菊五郎の孫2人が共演する話題もあるが、芸としての手応えは序幕。菊五郎の印南内膳が、善人らしくふるまう巨悪ぶりに、平成の30年間をかけて築き上げた貫禄がある。中村時蔵は、姫路城の妖怪で立女方(たておやま)ぶりをみせるが、それに劣らず、生締め鬘(がつら)に長裃(なががみしも)姿の立役(たちやく)の兵庫之助が、実にいい。古風な芸格、含蓄のある風姿、「忠臣蔵」の判官などが見てみたくなる。(国立劇場)
海老蔵は「鏡獅子」まで昼夜5役の大奮闘だが、柄にないかと思った初役の「俊寛」で、リアルすぎるところがありつつも健闘。3回目となる「幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ)」は、身分差による物腰が不足。化粧も地顔のように黒めで、正装に着替える件(くだり)でも表情が動くので表現過多となる。小品舞踊ながら、和傘の手妻(手品)を見せる「三升曲輪傘売(みますくるわのかさうり)」に、海老蔵の愛嬌(あいきょう)が生きている。(新橋演舞場)
 宮辻政夫
「寿栄藤末広(さかえことほぐふじのすえひろ)」は坂田藤十郎米寿記念。女帝役の藤十郎に気品がある。鶴は長男の鴈治郎、亀は次男の扇雀。従者はそれぞれの長男、中村壱太郎(かずたろう)と中村虎之介。親子孫三代がめでたく優美に踊った。(大阪松竹座) 
(新春歌舞伎、華麗に幕開け 東京・大阪の5座、3氏が見る:朝日新聞デジタル)