2019年1月12日土曜日

渡辺保の劇評 2019年1月 新橋演舞場

その俊寛、芝居の運びはごくリアルで、たとえば「もしやと頼紙をたずねて も」で赦免状を両手に持ってぐるりと一つ廻るところなど、これが義太夫狂言 かと思うほど自然である。このリアルさから一貫して妻の東屋を殺されたため に島に残る決心をする人間像になっている。そこがほかの人とは違う俊寛であ る。
海老蔵最後の演目は「鏡獅子」。五役中これが一番の出来である。
その後の鳴神と二人に なっての濡れ場がいい。御承知の通り雲の絶間は天皇の勅諚によって鳴神を口 説きに来ている。しかし児太郎はその底を一切割らずに品よく鷹揚に濡れ場を やってのける。たとえば鳴神に胸元に手を差し込まれて、一瞬放心したように 左手をダラリと下げる。そこで普通はチラリと本心を見せるのだが、児太郎は ごく自然にその左手を鳴神の手に重ねる。雲の絶間自身がこの瞬間に心を蕩か している官能を見せるのである。それが色気として舞台に立ちのぼった。いつ もはあまり色気を見せない児太郎が色っぽく、しかも品位を保っている。大進 歩である。この絶間といい、千鳥といい、去年の「関扉」の墨染以来の当たり である。(2019年1月新橋演舞場)