2019年9月7日土曜日

渡辺保の劇評 2019年9月 歌舞伎座

吉右衛門は視線の動き一つで暗闇を表現するのがうまく、闇はさらに深くなっ ている。今回ことに目についたのは、「九州相良」。今までは立身で平作に笠 を差し掛けるのがリアルだったが、今度は右手で笠を差し掛ける時に、左手を 上から大きく竹本のリズムに乗って廻し背の帯に手を掛ける動きが様式的にな って面白味を増している。それに幕切れもその笠をパッと下へ落とすのが析の 頭で絵面になっている。
吉右衛門を除けばこの幕第一の出来は菊之助の千代。前回まではどこか冷たい 母親だったが、今度は舅の女房役、緊張もし研究もして母親の哀しみを造形し ている。門口に立って泣き紙を口に当てながら「もし、お開けなされて下さり ませ」の不安から、源蔵の鍔音に「さてはもう殺されたか」という絶望と悲し み、くどきになっての紫の袱紗一枚、ほとんど体の動きを抑えて、母親の哀し みを迸らせたのは大手柄。吉右衛門の女房役としてお役に立ったは手柄者であ る。(2019年9月歌舞伎座)
見ごたえのある「沼津」と「寺子屋」です。