2019年9月21日土曜日

長谷部浩の劇評 2019年9月 歌舞伎座昼の部

この役者は時代物の大役で現在、歌舞伎界の先頭に立つ。ところが、『沼津』の十兵衛で見せる愛嬌とその底に潜む屈託を描出して余すところがない。この演目は、三世歌六の百年忌とある。まさしく十兵衛と拮抗する平作の滋味が歌六によってよく出た。後半からの平作は、なんとかお米(雀右衛門)のために、敵の居所をつきとめたい執念が買ってくる。人のいいおやじと見えたところが、腹を切ってまで大事を成就したい人間へと変わるところに眼目があり、今回の歌六は、平作の真髄に届いている。(長谷部浩の劇評  TheaterGoer Directory)