2019年10月9日水曜日

渡辺保の劇評 2019年10月 国立劇場

しかし芝翫の徳兵衛が本当にいいのはこれから。まず舞台上手の庭の掛樋に 絡んだ蛇が二つに裂けるのを見て、二重の上から腕組みをしてグッと掛樋を見 込んだ顔が、その気組みといい、その面長の錦絵の顔といい、その眼光の鋭さ といい、南北物らしい雰囲気である。今日では稀な感覚。この感覚あればこそ この一見お伽話風の作品がリアリティを持つ。
そうはいってもこの二人のおかげでどれだけ芝翫が引き立ち、かつ芝居が面 白くなったことか。少なくとも私はこの何度も見た場面で今度はじめてこの親 子三人の悲劇を深く考えさせられた。そうなったのはベテラン二人の力、そし て芝翫の持つ古風な面白さ、それゆえの現代性のためであった。(2019年10月国立劇場)