2020年1月9日木曜日

渡辺保の劇評 2020年1月 歌舞伎座

もう一つは勘九郎が祖父や父と違って真面目だからである。グチャグチャに ならない。背筋がビーンと張っている。喜劇は真面目にやるのが第一。菊田一 夫は舞台で笑うことさえ禁じた。真面目にやれ。客受けばかり狙うな、客を笑 わせようとするな。それでなければ喜劇は出来ない。
狂言とは家の建付けが違う。今更ながら 松羽目ものの面白さはこういうところにあるのかと思った。狂言の名人とは違 って歌舞伎の世話のリアリティが品よく浮かんでいる。この一句のよさが分か らないと芸の面白さは分からないだろう。  扇の的も仕方噺の面白さだけでなく、与一が馬へ乗る時のフッと馬を見る時 の表情に与一の人生が出る。吉右衛門の役者としての円熟の味わいであり、こ の一幕がいかにも正月の歌舞伎座である。(2019年12月歌舞伎座)