2020年5月3日日曜日

上村以和於の劇評 2020年3月

歌舞伎座は吉右衛門の伊賀守、仁左衛門の園部兵衛という大顔合わせの『新薄雪物語』が眼目の第一。期待に違(たが)わず、魁春の梅の方と三者揃(そろ)った「合腹」は当代歌舞伎の高峰として語り伝えるに足る舞台となった。
また自在の境地を見せる白鸚が、既に手中にある『石切梶原』に加え老け役『沼津』の平作に挑み、これが素敵にいい。幸四郎の十兵衛も情味と肚(はら)に和実の味を見せ、自身の芸の本領を示す。孝太郎のお米も実力発揮。
最適役は忠信で隙のない充実した舞台だが、目を瞠(みは)るのが知盛だ。重量級の役どころだが、菊之助は気品において先人を凌駕(りょうが)し、今後の持ち役としてわが物にした。
両劇場とも好舞台が揃ったのはもちろん出演各優の好演によるものだが、無観客の舞台で一日限りの上演という異例の環境の中という緊張感も、画像を通してひしひしと感じられる。先の見えない状況の中、歌舞伎健在の姿を見られる日を願わずにいられない。(異例の環境で好舞台 動画配信された3月歌舞伎  :日本経済新聞)
歌舞伎座も国立劇場も見逃せない舞台だっただけに残念です。