2020年10月5日月曜日

上村以和於の随談 2020年9月

 

第二部の『かさね』が思いのほかの好舞台だった。猿之助のかさねが、若い時に身につけた女方のこなしが良き頃合いに熟れてきているのに加え、いまとなっては加役としての女方ならではの、こしらえてかかった濃厚な色気がうまい具合に熟成して、とろみの具合が絶妙のシチューのような味わいだ。
第3部が「秀山祭ゆかり」の『引窓』である。吉右衛門が濡髪に回って菊之助が与兵衛、雀右衛門のお早、東蔵のお幸という水も漏らさぬ布陣で、コロナ禍以来ひさびさの丸本狂言である。ようやく「芝居」を見たという思いがする。
中でも、呂勢太夫・清治、呂太夫・清介の『絵本太功記』尼ヶ崎の段がこれぞ文楽と言うべく、就中、大詰の清介のタタキの凄まじさは往年の先代寛治を偲ばせる快演で、お陰でこちらも溜飲が下がった。
特に師匠に似せているわけではないにもかかわらず、『梅若礼三郎』という古風な人情噺を語り込んで行くうちに芸の姿がかつての正蔵の芸と重なり合う具合は、こういうあり方こそ、芸の継承として本物というべきであろうと思わされる。近ごろ稀な、静かで快い感銘を覚えた。(演劇評論家 上村以和於公式サイト | 歌舞伎の評論でお馴染みの上村以和於です。)

各分野にわたって盛り沢山です。