菊五郎が初役で六助を勤める「毛谷村」が、はまり役の時蔵のお園ともども歌舞伎の田園交響曲ともいえる、のどかな大人のメルヘンのようなこの作の魅力をよく伝える。左団次の斧右衛門も飄々(ひょうひょう)として独自の境地。東蔵のお幸、団蔵の微塵(みじん)弾正も手堅い。
田園風景とおおらかなユーモラスな演技が融合して心和む一幕です。
夜の部のみ出演の吉右衛門は「一谷嫩軍記」の「陣門・組打」の熊谷に専念。後段の「熊谷陣屋」の伏線となる動きの少ない、肚(はら)で持ちこたえる至難の役だが、無言のうちに見る者を納得させ、二重の意味を悟らせる卓抜なセリフで圧倒的だ。平敦盛と熊谷の嫡子・小次郎を勤める菊之助はまれに見る適役。祖父・梅幸の名品をしのばせる。
肚芸では一番の吉右衛門、義理とはいえ親子で熊谷、小次郎を演じた二人の間に特別な思いが交錯しているように感じました。菊之助はこういうお役は特に梅幸に似ています。
黙阿弥の散切物の代表作「筆屋幸兵衛」は明治初期の没落士族の境遇を明確にした補綴(ほてい)が効いて、幸四郎の黙阿弥劇として最も成功している。助演者もそろい世相劇としても面白い。(歌舞伎座2月公演 三巨頭、古典の魅力を存分に :日本経済新聞)
幸四郎の一番は?と問われたら、筆屋幸兵衛を挙げます。町人より武士のほうが似合っています。父親の幼い子どもたちへの愛情がよく現れていると思います。