赤と黒、二色の布に包まれた首を両脇に抱えて、弁慶は花道を去る。地面を踏みしめつつも、その足には一歩一歩、刃が突き刺さるような足取りではなかったか。吉右衛門の長年培った身体と内心の関係が凝縮されたような引っ込みであった。
夜の部の見物は幸四郎による『一本刀土俵入』。言わずと知れた長谷川伸の人情劇だが、相手役に猿之助のお蔦を得て、芝居が切々として辛くなった。なにより序幕第一場の幸四郎が、水際だった若々しさでこの人の技倆の充実を思う。(長谷部浩の劇評 TheaterGoer Directory)吉右衛門・幸四郎・仁左衛門に雀右衛門・松緑・猿之助と充実の今月です。