2017年8月14日月曜日

渡辺保の劇評 2017年8月 歌舞伎座

勘九郎の耳男も桜 の森に追い詰められる。そこで耳男が七之助の夜長姫を殺す。満山の桜――― 堀尾幸男の墨の強く入った、一風変わった桜の森の装置のなか、桜吹雪が激し く降る。高鳴る音楽。そこで展開する「殺し場」が官能滴るばかり。その美し さは幻想的で、ぼってりとした厚みのある豊かさで、しかも儚く、これまでの 歌舞伎の「殺し場」とは一味も二味も違う新しい美しさであり、同時にこれぞ 歌舞伎という本質的な歌舞伎そのものの造形性の極北を示している。
官能的、幻想的、儚く美しい殺し場。久しぶりにゾクっとしそうです。
歌うところは歌ってもいいのではないかと私は思う。それが歌舞伎であり、 岡本綺堂の戯曲だろう。(2017年8月歌舞伎座)
若き頃岡本綺堂の戯曲を読んでいましたが、声をだして読むと韻文のような美しい文体に酔いました。綺堂物はやはり歌うところあり、というのが良さでしょう。