2017年12月14日木曜日

渡辺保の劇評 2017年12月 歌舞伎座

中車と愛之助の「らくだ」(第二部)が面白い。  私はこれまで岡鬼太郎作の、東京版の「らくだ」しか知らなかった。今度は じめて大阪版(初代桂文枝口述、堀川哲脚本、奈河彰輔改訂演出、今井豊茂演 出)なるものを見て大いに笑った。もともと「らくだ」は大坂落語だから本家 本元というべきか。東京版とは感覚がまるで違う。岡鬼太郎本が人間の死の尊 厳にふれているのに対して、大阪版は一切理屈抜き、野放図に笑いに徹してい るところが面白い。
「土蜘」も松緑の東京初役。前シテの花道の出のニンに合った凄味もよく「樹 下石上」の舞から踊りにくだけるあたりに、この人の踊りのうまさがよく出て いて堪能させる。今の歌舞伎界では一番の踊り手で味わい深い。芸のレベ ルでいえば今月一番の見ものである。(2017年12月歌舞伎座)