2018年6月16日土曜日

石井啓夫の劇評 2018年6月 歌舞伎座

昼の「野晒悟助(のざらしごすけ)」。歌舞伎座では20年ぶりの上演。大坂を舞台に侠客(きょうかく)、悟助(尾上(おのえ)菊五郎)が男伊達(おとこだて)を満喫させる話だが、作者の河竹黙阿弥流の七五調のせりふに加え、ヤクザ者に絡まれた土器売り父娘と大店の娘(中村米吉)を救う格好よさなど、江戸っ子臭ふんぷんだ。菊五郎の愛嬌(あいきょう)ある硬軟の妙技がさえる。
夜は「巷談宵宮雨(こうだんよみやのあめ)」。宇野信夫作の新歌舞伎で、オール初役だが、世話物ならではのリアリティー芝居と、大場正昭の余情漂う演出が重なって絶妙な仕上がりに。うらぶれた長屋住まいの庶民層が欲にまみれ、ふてぶてしく、かなしく生きる。破戒僧龍達(中村芝翫(しかん))と、おい太十(尾上松緑(しょうろく))との、龍達の隠し金をめぐる確執。ついに怪談噺(ばなし)へと発展するが客席の笑いは消えず、幽霊登場にも沸く一興の芝居だ。(【鑑賞眼】歌舞伎座「六月大歌舞伎」 菊五郎の悟助、愛嬌ある硬軟の妙技(2/2ページ) - 産経ニュース)