2019年2月7日木曜日

河村常雄の劇評 2019年2月 歌舞伎座

料理人丑松は、女房お米を金持ちの妾にしようと企むその母お熊をあやめる。逃げた先から戻ると、お米は兄貴分四郎兵衛の手で女郎にされていたという悲惨な話。初代の盟友だった菊五郎が料理人丑松。時蔵が丑松女房お米。菊五郎は一本気な男の転落を陰影深く描く。若々しさも芸の力。時蔵も薄幸な女の愛をにじませる。脇もよく、江戸の市井と人の心の暗闇を活写した。 序幕で、團蔵の浪人潮止は卑猥な中に浪人者の哀しさがある。橘三郎のお熊は地声で通し強欲ぶりが出た。二幕で松也が喧嘩早い料理人祐次、亀蔵の妓夫三吉も好演。大詰、左團次の四郎兵衛に重みがあり、東蔵は意地が悪く色気を振りまく四郎兵衛女房お今を達者に演じる。権十郎の岡っ引常松、橘太郎の湯屋番頭甚太郎もそれらしい雰囲気を出す。周囲がいいのは菊五郎の力だろう。今月一番充実した芝居だ。
「名月八幡祭」で松緑がだました芸者美代吉を殺す縮屋新助。うぶで真面目な田舎の商人をうまく演じている。仁に叶っているのだろう。将来当たり役になりそうだ。(河村常雄の新劇場見聞録)