2019年4月11日木曜日

渡辺保の劇評 2019年4月 歌舞伎座

今度 の「鈴ヶ森」はその点で二人の出会いの意味、その人生での重さが目の当たり。 それは菊吉二人がお互いに相手を尊敬するドラマを丁寧に描いているからであ る。たとえば権八を呼び止めた長兵衛が提灯の灯りで刀を改めるところ。むろ ん権八は警戒する。スワといえば斬る気である。しかし長兵衛はそれをモノと もしない。一心に刀を改めてそこに感動する。その胆力に権八が感動する。こ れだけで二人の人生が出る。むろんいつもの型通り、しかし型を深く掘り下げ たところにいつもとは違うドラマが出る。人間の出会いが一にかかって尊敬に あることは、これを見れば誰にでもわかる。そういう「鈴ヶ森」はたえてなか ったし、今後もないだろう。(2019年4月歌舞伎座)
しかしなによりも今度の仁左衛門の白眉は、「戦の場所は北國篠原」から 「老武者の」の件りである。白扇を翻してアッという間に次の手に移っていく、 その間のあざやかさ、華やかさ。善尽くし美尽くしして他に真似手がない。た しかに先月の「盛綱」のようなドラマ上の発見はないが、技巧の華美さは目覚 ましい。この型を守りながら、型を掘り下げていくところが歌舞伎の真髄であ る。(2019年4月歌舞伎座)
菊・吉・仁、お三方の舞台はいつまでも語り継がれることでしょう。歌舞伎を観始めたばかりの方も是非観て下さい。