2019年6月2日日曜日

上村以和於の随談 令和最初の愚挙 2019年5月

御大菊五郎が出る額面通りの大歌舞伎は『め組の喧嘩』だけで、その他は、やがて来る歌舞伎界「改元」へ向けた中堅・花形歌舞伎。もっともこれは必ずしも冷評ではない。4狂言それぞれに、規矩を守ってきちんとした好感の持てる舞台であったから、一日見終わって決して不満足は覚えなかった。
向こうからは何も押し付けてこない、癖のない端正な踊りぶり。言葉にしてしまえばそれだけのことなのだが、そんな言葉の陰に、芳醇な銘酒の香りがほのかに漂っていたのも間違いない。願わくば、そのほのかな香りが、やがて、もっと芳醇な酔い心地へと誘ってくれる日を楽しみにすることにしよう。
歌舞伎座の何倍もの幾千という人数を収容した会場に、おそらく九割方は歌舞伎座はおろか、浅草歌舞伎の敷居だってまたいだことはあるまいと思われる、学生が主体と思われる若い観衆の前で、初音ミクを相手役に、あんなに獅子粉塵の大奮闘をする歌舞伎俳優が他にいるだろうか? 文字通り、体を張っての舞台だった。あんなことは、よほどの覚悟と決意がなければ出来ることではない。(随談第619回 令和最初の愚挙 | 演劇評論家 上村以和於公式サイト)
文楽、相撲のことにも触れています。