序幕大川端。時蔵のお嬢は女形の間に無理がなく、男になってからも程のい い柔らかさ、違和感がないのはこの人のニンばかりではない。じっくり噛み締 めた芸の寸法による。近頃形容ばかりで見せる人の多いこの芝居、芸の余裕と 色気で見せるところが、芝居のコクである。松緑のお坊は、自分のニンを考え ての濃い白塗り。御直参安森家のお坊ちゃんのぐれた具合をうまく出している。 いつものせりふの癖も直って、この人と時蔵の二人の吉三に一種の好意とそれ ゆえの負けん気が出たのは、本当に思いがけない収穫。これがなければ三人の 義兄弟、和尚を兄貴と頼む二人の生き方が出ないのだということがよく分かる 出来栄え。(2020年12月国立劇場)