第三部の「吃又」が今月この座第一の見ものである。この二人の共演は十二 年前の浅草公会堂。勘九郎の又平は、前半花道のではアッサリしているが、 「遠州助定あっちへやるか」辺りからその実力を発揮して巧い。続いて「身か ら一人」の孤独感から、将監に「斬らっしゃりませ」という辺りの真に迫った ところがうまい。十二年前の初役の時に十代目三津五郎に教わったとかで、三 津五郎流の、どもりでさえなければ普通の好青年という視点がハッキリしてい る。後半は台頭の舞まで、これも三津五郎流でキッパリしている。動きが機械 的といえる程で面白い。猿之助のおとくも初役から十二年、しっとりと自分の ものになった。花道の出で一度振り返って夫を見つめ、七三でまた改めて振り かえるという情の濃さがいい。本舞台へ来てからのしゃべりといい、つねに又 平の影にあっての女房役。「もう望みは絶えたぞェ」から絶望の芝居まで、い いおとくである。この二人の好演で今月はこれ一番という出来である。(2020年12月歌舞伎座)