もう一つ驚いたのは、これはお嬢とお坊の立ち廻りになった時にフッと舞台をよぎった風が、なんとなくお嬢とお坊は互いに好感を持っている、友人になりたいという雰囲気を暗示していたことである。そしてそれは現実になる。二人の中に飛び込んだ和尚吉三を巻き込んで三人はたちまち兄弟になる。こんな好感溢れる三人の吉三を今まで見たことがなかった。その点でもこの「三人吉三」は画期的といわなければならない。
この緊張感は猿之助が頼光に出たためである。この二人の組み合わせが舞台に大きく幅を与えている。見ている観客もそれに巻き込まれて面白く、花道のカーッと口をあけての引込みまで、近来にない芸の火花の散り様であった。本来ならば土蜘に廻ってもおかしくない猿之助が頼光に廻ったための大舞台である。(2021年5月歌舞伎座 第一部 – 渡辺保の歌舞伎劇評)