2021年6月13日日曜日

矢内賢二の劇評 2021年6月 歌舞伎座・国立劇場

 片岡仁左衛門は病み衰えてなお桜姫に執着する清玄の哀れさを、一方の権助では男くさい色気と愛嬌(あいきょう)とを対照的に見せる。坂東玉三郎の桜姫は、岩淵庵室の場での花道の引っ込み、「毒食わば」のせりふが印象的。権助の容貌が変わるのを見て己の因果をさとり、覚悟を極める心が鮮烈に表れ出る。風鈴お姫となっての女郎姿はまことにすっきりとして目を奪われる。公家言葉の混じる鉄火なせりふにはまるで衒(てら)いがなく、ごく自然にこの女性の奇怪な人生を想起させて見事。

尾上松緑の若々しい長兵衛が新鮮で、娘への愛情や職人らしい短気と矜持(きょうじ)が明確。(<歌舞伎評 矢内賢二>歌舞伎座「六月大歌舞伎」など 大評判の「孝玉」 ふたたび:東京新聞 TOKYO Web)