次がこの一幕の白眉、桜姫が清玄に襲われる立ち廻り。ここが三十六年前と演出は同じでも、その出来の全く違うところ、ましてその意味するところに天地雲泥の差があるのが今度の収穫である。すなわち逃廻る桜姫が庵室の経巻を投げる。それを枷にいくつかの二人の見得の、歌舞伎座の広い舞台一杯に広がる絢爛たる美しさ。その形の美しさに見ていて陶然となったのは私ばかりではない。(2021年6月歌舞伎座 第二部 – 渡辺保の歌舞伎劇評)